free[連載]Biennale Story(2-1) ヴェネツィア・ビエンナーレ 2013 (1)

第55回ヴェネツィア・ビエンナーレ――2010年代のアートはどこに向かうのか? (1)



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アルプスよりヴェネツィアへ、そして機内よりヴェネツィアを望む

副題にあるように本テクストの主題は、2013年のヴェネツィア・ビエンナーレのレポートに加えて、2010年代のアートの動向を探ることにあるので、前回の2011年の同ビエンナーレを参考にすれば、さらに理解が深まると思う。そこで、前回のビエンナーレについて書いた私の展評のURLを記しておく。
http://artscape.jp/focus/10004147_1635.html
http://artscape.jp/focus/10006403_1635.html
また、今回のビエンナーレのいくつかの情報に関しては、facebookにアクセスされたい。



・はじめに
当然のことながら、前回と今回のヴェネツィア・ビエンナーレを鑑賞しただけで、2010年代の現代アートの潮流の全貌を把握できるわけではない。ヴェネツィアが世界最大(今回の規模については後述)にして最古(第1回は1895年、戦争によって中止されたので今年で55回目)のビエンナーレではあっても、世界に数多あるビエンナーレの一つでしかなく、またそれ以上に、ビエンナーレは世界のアートシーンを形作るイベントの一つ(ただし非常に重要な)なので、ヴェネツィア・ビエンナーレ(間違いなく大イベントだが)は、現代アートの活動の全体を担っているのでも、代表しているのでもない。とはいえ、最低限言えることは、歴史を切り取って、時代の最先端のアートを見せるショーケースの役割を果たしてきたということである。
とくに2000年代のビエンナーレを振り返ってみると、2000年を挟んで開催された二つのビエンナーレのアーティスティック・ディレクター(キュレーター)を務めたハラルド・ゼーマンが、その当時アートの世界で頭角を現わしてきた中国人アーティストを、ビエンナーレに大挙招聘し、その後ますます多様化するアートの動向の幕開けを宣言した。実際、2000年代のアートの世界はグローバル化――経済活動のように画一的ではないが、現代アートのイディオムは守る――の一途を辿った。
この一般的趨勢のなかで、ヴェネツィア・ビエンナーレは、ナショナル・パビリオンの制度がある珍しいビエンナーレ(他にはサンパウロ・ビエンナーレがあったが廃止された)であるために、参加国の増加が見られた。実は、20世紀末までは、このナショナル・パビリオンの存在が、近・現代アートの有する普遍性と齟齬をきたすとの理由から批判のやり玉に挙がってきた。
しかし、20世紀末より始まるアートの国際的な多様性すなわち多文化主義の拡大にともなって、ナショナル・パビリオン制度が受け皿として機能したことによって、批判はほとんど立ち消えになった。勿論、国家と文化は外延を同じくしないので、厳密に言えば、ナショナルなものはローカルな文化からずれる。いずれ、この矛盾が露わになるだろうと思ったが、とにかく2000年代は、表現のこの動向を背景にして、ビエンナーレのナショナルなスペース(パビリオン)が有効に働いてきたと言えるだろう。
また、ビエンナーレを構成するもう一つの部門である(以前は「アぺルト」と呼ばれた)企画展は、2000年代に入って、参加アーティストの出身地がワールドワイドに拡大するとともに、彼らを選出するキュレーターが一人ではなく複数(代表のディレクターは一人だとしても)になった。ちなみに、今年のディレクターのMassimiliano Gioni(1973年生)は、2003年のディレクターFrancesco Bonamiの下で企画の一部を担当していた。
2000年代の後半になると、再び一人で企画するようになった(2007年Robert Storr、2009年Daniel Birnbaum)が、グローバル化したアートのすべてをカヴァーすることは力量的にも時間的にも無理なので、2000年代後半のビエンナーレは、企画展のほうの参加アーティストの作品に、優劣というよりテーマに合致するかしないかでばらつきがあったり、アルセナーレの展示スペースが徐々に縮小されて作品の数が少なくなったりと、巨大展覧会の見るだけで圧倒されるような輝きや凄みが減少したのも事実だ。
そして2010年代、社会・政治・経済状況が大きく変化するなかで開催されたのが、前回2011年のビエンナーレである。これは、スイス人のBice Curiger(ビス・クリガー、1948年生)がディレクターに迎えられた展覧会で、詳細は展評に譲るが、要約すれば、歴史の激動期と言ってよい10年代の冒頭に現われるだろう表現のレパートリーが出揃ったという印象を受けた。
ここで、それをまとめると、
1.直前の10年まで流行だったポストモダンの最後の灯火。簡単にポストモダンアートの系譜を辿れば、ジェフ・クーンズ、ピーター・ハリーらの第一世代(1980年代~)、ダミアン・ハーストらYBAと奈良美智、村上隆らの第二世代(1090年代~)、ケリー・ウォーカー、アンセルム・ライル、トーマス・ジップ、ルドルフ・スティンゲルらの第三世代(2000年代~)がいるが、この最後の世代に属するUrs Fischer(ウルス・フィッシャー)の作品は、蝋燭が燃え尽きるまで古典彫刻のシミュラークルが見られる。第二世代のクリスチャン・マークレーの映像作品The Clockは、劇映画の引用の織物(モンタージュ)の時計だった。しかも、この時計がエンターテインメントとして上映される時間は24時間。まさに、終わりなきポストモダンの終わりである。ポストモダンの反復を自ら断ち切るポストモダン(フィッシャー)と、映画という娯楽のスペクタクルの正体は、身も蓋もない時間を消費する時計(マークレー)だったのだ。
2.現在の表現方法への反省(絵画、彫刻、写真など各表現メディアや、アートの背景となる思潮の多文化主義、ポストモダンなどとは何かを問い直す)。
3.オーソドックスな個人的創造ではなく、人間の〈集合体〉(ばらばらの集合でも、単一の目的を追求する集団でもないアクティヴィズムにつながる複数の人間の複数の目的によるゆるやかな結合)の表現(展覧会)へのチャレンジ。
そこから、なにか新しい表現が生まれるのか非常に興味深い。

ジャルディーニ(ビエンナーレ会場)

ジャルディーニ(ビエンナーレ会場)
ビエンナーレ会場のジャルディーニ

ここで本題のビエンナーレのレポートに入る前に、今年の基本データを。会期、6月1日~11月24日。ナショナル・パビリオンの数、88(前回は89)。初見参10カ国。企画展の参加アーティスト数、150名(例年は100に満たない)。コラテラル(関連)企画展の数、47(至上最多)。同時期にヴェネツィア市内で開催されるその他の特別展、70(至上最多)。
その他2013年のヴェネツィア・ビエンナーレ鑑賞に便利なお得情報。言語(記号)情報は、カタログ、ガイド、パンフレット、それに地図がある。なかでも今年は詳細な地図が三つ用意されている。以前は、市内のパビリオンや特別展を訪ねるときは必ず迷子になっていたが、これがあれば万全だろう。

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日本館の表示

さて、ヴェネツィア・ビエンナーレで授与される賞(Official Award)に関しては、元々批判的(アートに優劣はない)だったのであまり言及したくないのだが、ヴェネツィア映画祭の賞に合わせたのだろうか、Golden Lion賞は、初出場組のパビリオンのアンゴラ、アーティストはTino Sehgal(ティノ・セーガル)、それにベテラン功労賞はMaria Lassnig、Marisa Merz。若手に向けたSilver Lion賞はCamille Henrot、特別賞は、アーティストのSharon Hayes、Roberto Cuoghi、パビリオンのキプロス、リトアニア、そして日本。
ヴェネツィア・ビエンナーレのWEBサイトを参照されたい。
http://www.labiennale.org/en/art/news/01-06.html

2013.08.03 | コメント(0) | ビエンナーレ

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