[連載] Contemporary Art Scene in the World(13)--ParisとLondon、二都物語―現代アートのパララックス(1)

ParisとLondon、二都物語―現代アートのパララックス(1)



[Paris]
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1.マティスの呪い(モダニズムは超克できるか?)
Parisのアートと言えば、19~20世紀初頭のモダンアート初期のマスターの一人マティスが想起されるが、モネがプレモダンからモダンへの移行期、セザンヌがプレモダンとモダンの葛藤の表現だったとすれば、彼らの後を襲ったマティスは形式と内容の統一・調和の美(古典的美学であり、古典的なアートは、これを目標に表現された。マティスは、再現を現前に従属させる形式優位(だが、内容を無視していない。したがって、形式のデフォルメがある)のモダンアートで、この美学を追求した)を具現している。ポンピドゥ・センターの作品(写真)から。

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そして、市立近代美術館の壁画(写真)を忘れずに。

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20世紀のモダンアートは、このマティスを原点に形式(色彩と形態。それに付随するのが素材の物質)重視のフォルマリスムの系譜が連綿と続く。市立美術館では、マティスの対面に、その継承者としてビュランの作品(内容のない形式と言ってよいが、この形式の崩壊の徴候があるのではないか?!)が飾られていた。

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2018年の初めまでPalais de Tokyoで展覧会(写真)を開催していた現代のアーティストCamille Henrot(フランスの若手の現代アーティストでもっとも注目される。2015年のヴェネツィア・ビエンナーレで新人賞を獲得)もまた、この系譜上にある。つまり、マティスの後継者の最新の形式と内容の見事な調和である(SUNDAY NIGHT参照)。

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展覧会は、メイン会場の全館を使用し、Jacob Brombergの詩の1週間(写真)を展覧会構成の枠組みにして、各スペースにインスタレーション(写真)を展開していた。各作品の繋ぎには、他のアーティストの作品が置かれていた(割愛)。

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この大展覧会で、Henrotが、マティス以来のヒューマニズムの歴史に連なるアーティストであることが確認された。たとえばSUNDAY NIGHTのセクション(写真)は、人間の一生の各局面(誕生、幼年、少年、青年、壮年、老年期)、類比的には人類の歴史を暗示する様々な表象で見事に構成されていた。このインスタレーションを見れば分かるように、人生であれ人類であれ全体は、青い地(壁面)の上にオブジェやイメージ(写真や印刷物)の曲折のある線状の図が非常に美しい印象を与える。おそらく図の部分だけでは破綻(人生に一貫性や人類史に秩序はない)があるとしても、地の部分がそれを包み込んで美的な感動を呼び起こす。ここにも形式(容器としての地)と内容(人生や人類の歴史の図)の間に調和がもたらされる。因みに彼女の調和は、マティスとは逆転して内容優位の調和である。

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また、Henrotの彫刻作品(写真)を見ていただきたい。このぐにゃとしたフォルムは、余裕のある脱力したリラックスのユーモアを意味しているのか? それともある種の衰弱たとえば人間文明の疲弊や衰退を表しているのか、気になる。

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別のインスタレーションは(写真)、インターネットを通じてHenrotに送り付けられる過多で不必要な情報や関心事(環境問題)のメールを印刷した紙が取り散らかる漫然とした(混乱して無秩序な)インスタレーションだが、立体作品の特異点の周りに配置されることでカオスが小ぎれいにまとまって見える。これも、彼女の調和美学的能力が見事に発揮されて、事物の散乱が収束して神経が逆なでされることはない。しかも、文面は日々の雑事や彼女の関心事(環境問題)が記されている。その様は、無秩序の秩序化(カオスモス)と言えばよいか。しかし、現状は収拾不可能な決定的に分裂した事態ではないのか。

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しかし、それが彼女の作品に災いを招き寄せているとすれば、どうだろうか? 形式と内容の調和のマティス的理想に未だに囚われているという。これをマティスの呪いと呼びたい。古典美学を引き継いだマティスの達成した形式と内容の統一・調和の偉業は、今日ではもはや成立しないのではないか(前掲のビュランの作品は、それを予言していたのではないか?)。モダンアートでは形式に物質性が宿るのだが(その過剰な例は後で)。社会的に多人種、多民族で暴動やテロが続発する世界に統一はおろか調和を見出しようがない。この世界を背景にすると、いたずらに調和を称揚したり吹聴することは欺瞞的ではないか? この現実に統一や調和を提言したとしても、誰もまともに受け取ることがないか、夢物語として片づけられてしまうだろう。
だが、Henrotの展覧会は、文句なく美しかった。


2.古典的唯物論と新しい唯物論の作品(物質はアートの躓きの石となるか?)

・古典的唯物論
モダンアートの物質性(形式に物質性が宿る)に話題を絞ろう。
モダンアートがフォルマリスム(形式主導の表現)を志向してきたことは、ビュランのストライプや、Henrotのインスタレーションで確認できたと思う。
この形式に素材やマティエールという形で物質性(Henrotの作品では、素材やオブジェや写真や印刷物)が介入する。
それでは、絵画史上もっともマティエール(絵具の物質的、材質感)の厚い絵画といえば、Eugene Leroy(1910~2000年、写真、Galerie Nathalie Obadiaでの二人展より)の絵画を嚆矢とする。

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物質性への哲学的着目(唯物論)ということなら、60年代のSuport-SurfaceのLuis Cane(写真、Galerie Ceysson & Benetiere)がいる。

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工業化社会の物質(金属やプラスティック)の特性を活用するアーティストといえば、Nouveau RealismeのCesar(写真、ポンピドゥ・センターの回顧展から)。これぞれのシリーズのタイトルは、Compression(可塑性)とExpansion(柔軟性)。

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・新しい唯物論
では、最近流行の新たな思想は、Henrotの項で述べた現代の状況に対応できる美学を提供できるか? その哲学とは、思弁的実在論である。しかし、これはその代表の一人メイヤスーの問題意識にある人間(人類、過去に遡って祖先)以前、(人類、未来に降って子孫)以後の実在を語る議論を見れば、近年人間が引き起こしている暴力(とくにヨーロッパのテロ事件や中東の内戦)に嫌気がさして、人間以前と以後に逃げ込んでいるように見えなくもない。
ポンピドゥ・センターで行われていたデュシャン賞は、この新しい唯物論からインスピレーションを受けたのではないかと思われる作品が展示されていた(写真)。

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前三者の候補者の作品は、物的証拠や痕跡から物語が再構成されるというより、人間のいない(不在)が強調される風景ではないだろうか?――人間のいない奇妙な実験室、人間のいない古代都市あるいは美術館、人間のいない都市あるいは国家。最後のデュシャン賞を獲得したアーティストの作品にのみ、地質学的ないし考古学的発掘現場で労働する人間がいる(映像)。人類以前の時代かどうかは不明だが、人間が存在してもしなくても存在するもの、精神とは無関係に存在するものを暗示している地質学的事実(サンプル)の展示。
新しい唯物論は、人類以前、以後を扱うので、マティスの呪い(不調和や破壊も、調和と創造の反対なので同じである)から逃れられる?


3.Lenger-Patzsch(事物、生物とイメージの一致)とAli Kazma(リアリズムはなぜ強度をもつのか?)@Jeu de Paume美術館
時代を遡れば、フランスではないが、ドイツの新即物主義(画家としては、M・ベックマン、O・ディクス、G・グロスなど)の写真家、Albert Renger-Patzsch(写真)。

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写真は生物や事物を再現するイメージだが、彼の写真は非再現的イメージ(写真のなかにしかないイメージ。写真の外部に指示対象がない)ではないか? 言い換えれば、生物、事物=イメージである。
だが、リアリズムの問題を解決しなければならない。なぜ、このリアリズムが、表現的にフィクションより強度があるように思われるのか? ちなみに、リアルの強度は正確な再現(それは克明な撮影、細密な描写や解像度に拠る)というより、イメージが物自体に見えることに応じて高まる。それは、被写体(モティーフ)の強度(インパクトを与える形質)ではない。イメージ=現実がすでに強度を孕んでいるのだ。
リアリズムの理想である対象をありのままに描写する装置という意味で、シミュラークルの対極にある写真や映像が、なぜ指示対象のないシミュラークルになるのだろうか? ここにパラドックスがある。あまりに現実に近づいた表現は、現実とぴたりと重なることで指示対象を失うのだ。なぜなら、指示対象がどこにあるのかと問われるとき、写真(映像)のなかにあるとしか答えようがないからである。究極のリアリズムは、イメージ=指示対象なのだ。写真(映像)の外部にある被写体(外部の判断基準)とイメージを照らし合わせ、イメージが被写体(指示対象)と一致するかどうかを検証するのではなく、写真の内部で被写体を探すとき、指示対象とぴたっり重なるリアルな(迫真の)イメージに遭遇するのである。
イメージが指示対象(被写体やモティーフ)からはみ出すもの=剰余価値がまったくなければ、経済的利益を生まない。この自己に完全に再帰した、フィクション=スペクタクルのないイメージは、商品とはならない(儲けがない)のだ。というわけで、イメージ=指示対象は剰余価値の産出と蓄積の論理の反対を行く。かくして資本主義の没落が始まる。
たとえば、同じくJeu de Paume美術館で開催されていたAli Kazmaのドキュメンタリー・ヴィデオは、職業(とくに手作業の仕事)から純然たる風景(しかし、過去や現在の仕事の現場である工場など)まで、現実をありのままに描き出す映像に強度がある(惹きつけられたり、圧倒されたりする)。ドキュメンタリーの前提に、アートと現実は連続している、本質的に同一平面上にあることを付け加えておこう。

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現代アートで事物=イメージを探し求めるとすれば、次のような作品が該当するだろう(写真)。
前者のアーティストは、Pauline Boudry & Renate Lorenz、後者は、Mimosa Echard。

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両方の作品とも、素材の部分の素朴だが繊細な、つまり十分に計算された取り扱いによる微妙なマティエール(質感)の現出が、その部分の物質をイメージ(周囲の物質的現実との対比でそれと分かる)にするのである。

テーマ:art・芸術・美術 - ジャンル:学問・文化・芸術

2018.02.28 | コメント(0) | アートシーン

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